リンパ浮腫の治療に用いられる腕用の弾性ストッキングをご存じですか?
「弾性スリーブ」と呼ばれており、弾性ストッキング同様、治療が必要な部位に圧をかけていきます。
今回は、弾性スリーブについて詳しく解説するとともに、KEA工房で取り扱いのある弾性スリーブをご紹介します。
腕のリンパ浮腫の治療には弾性スリーブ
下肢(脚)と同様にリンパ浮腫の治療で用いる腕用の弾性ストッキングを「弾性スリーブ」といいます。
乳がんなどの手術後に腕に現出するむくみもリンパ浮腫である場合が多く、また、放射線治療や抗がん剤治療が誘因となってむくみが現出することもあります。
既製品では決まった圧クラスが用意されている
大多数のブランドで、既製品では圧クラス1と圧クラス2が用意されています。
既製品は丸編みが多く、平編みの既製品を準備しているブランドはあまりありません。下肢(脚)用のストッキングよりもカラーが限定されている場合が多いです。
※平編みはカスタムメイド対応が普通
弾性スリーブは最長6か月使用できる
購入時に梱包等に表示されている圧が持続できるのは最長でも6か月です。
圧が出なくなったスリーブを使用していると、むくみの度合いがひどくなる可能性もあるので、6か月経ったら必ず新しいものに変えなければなりません。
「使用していない期間があったから、その分使用できる期間が伸びる」と考える方もありますが、それは間違いです。使用の有無に関わらず、一度でも腕を通していたら劣化は進みます。
主に5種類の弾性スリーブ
弾性スリーブには、①腕だけ②腕と手③腕と肩④腕と手と肩➄手だけと、主に5つのスタイルがあります。
①腕だけ:単に「スリーブ」または「C-Gタイプスリーブ」といいます
②腕と手:「ミトン付きスリーブ」
③腕と肩:ショルダーキャップ付きスリーブ
④腕と手と肩:ミトン付きショルダーキャップ付きスリーブ
⓹手だけ:手の甲を覆うA「ミトン」と、指までカバーするB「グローブ」の2スタイル
サイズや種類の選び方
圧やスタイルは医師等医療者が選ぶのが原則です。また、症状に合わせて正しいサイズ選びも重要となります。
(※弾性スリーブの着圧は担当医師に判断してもらいます)
サイズが合わないと効果に期待できない
合わないサイズを使用すると、効果を期待できないばかりか、症状が悪化する場合もあるので、医師等医療者とよく相談しましょう。
販売店でもしっかりと話を聞いて選択することが大切です。
種類選びのキーポイントは「肩」と「手」
この2か所に明らかなむくみがある、あるいは治療が必要と認められる症状があるかどうかで、形状(スタイル)の選択肢が決まってきます。
ただし、医師や治療者の方針やむくみの状況、生活スタイル、患者様自身の体力や膂力(りょりょく)などで、最も適したスタイルを選ぶことになっていますので、ご自身で勝手に判断するのではなく、必ず医師や治療者とよく相談して決めてください。
朝起きてから寝るまで着用が基本
弾性ストッキング同様、起床したら装着して、就寝時には外します。
「職場についたら」では遅すぎます。「起きたらまず装着」が大原則です。
弾性ストッキング同様に可能なかぎり、長い時間を着用する
入浴から就寝までもできるだけ装着しておきましょう。
現在では、こうした時間専用に装着が楽な設計の製品もあります。夜間の使用については、担当医または専門家と相談して決めるようにします。また、夜間専用の製品もあります。
着用することによってしびれや変色した場合は医師へ相談
ストッキングと同様、着用していて、以下を感じましたら一度着用をやめて担当の医師に相談しましょう。
・しびれを感じる
・指先が白く変色したり、真っ赤に変色したりする
・極端に動きにくいなど
また、腕に感染症などがある場合や、皮膚に何らかの病変が見られる場合にも、使用はやめて医師に相談してください。
着用した状態で腕を動かす運動は、弾性スリーブの効果を高めると言われています。テニスなどのいわゆる「スポーツ」でなくても、「肩を大きく回す(肩甲骨を動かす)」「肘の曲げ伸ばしをする」「手首を曲げる」なども十分効果的です。
KEA工房で取り扱いの弾性スリーブ
ここでは、KEA工房が取り扱っている弾性スリーブについてご紹介します。
・メディハーモニー(ドイツ:MEDI社)
KEA工房で最も多く販売されている丸編みスリーブ。形状の選択肢も多く、さまざまな症状に対応が可能です。
肘の内側・外側に楕円形の加工を施して、しわの形成を抑えるダブルエリプス加工や、素材にラノリンを含ませて肌に優しく、シーム(縫い合わせ)部分を薄く仕上げるなど、工夫が多いのも選ばれる理由です。
・メディエスプリ(ドイツ:MEDI社)
既製品では比較的珍しい平編み製品。厚手の布地ですが、柔らかく、平編みとしては扱いやすいです。
・MAXISスリーブ(チェコ:MAXIS社)
MEDI社の系列会社で、MEDI社に比べて展開している形状は少ないですが、比較的リーズナブルな製品です。
・JOBSTベラライト(ドイツ:BSN Medical社)
展開している形状や圧は少ないですが、手首部分が比較的柔らかくできているので、力がなく装着に困難を感じる患者様でも扱いやすい製品です。
・JOBSTベラストロング(ドイツ:BSN Medical社)
ベラライトよりも厚手の布地で、同じ圧力設定ですが、しっかりと圧がかかるように作られています。
・COCOFY PLUS(日本:東レメディカル社)
国産の弾性スリーブ。展開形状や圧は少ないですが、日本人の体形や筋力・日本の気候などを考慮して、東レの素材を使用し国内の工場で生産したもの。ヨーロッパ産の製品に比べて、装着が楽で動きやすいという声があります。
・ジャクスタフィットアームスリーブ(ドイツ:MEDI社)
ベルクロ式弾性着衣という新しい概念の製品。スリーブとして使用しても、包帯と同程度の圧をかけることができます。米国では「包帯」ではなくこの製品を処方することが一般化しつつあります。こちらは24時間使用が可能です。
・モビダーム・オートフィット(フランス:THUASNE社)
夜間の使用に重点を置いて開発された製品。袖を通すように装着して、ベルクロで適正な位置に止めるだけなので、在宅医療の現場でも使いやすいと評価されています。
特殊な形状のウレタンで凹凸を作り、その凹凸の高低差でドレナージュ効果を生み出します。
・エアボウェーブスリーブ(日本:三優メディカル社)
「在宅時」の使用を中心に考案された製品。装着が非常に楽でありながら、しっかりした圧がかけられるという特徴があります。
就寝中の使用も可能で、包帯の下巻として応用される例も少なくありません。かなり厚手の布地ですが、通気性は抜群です。
・Core Sports アームスリーブ(米国:Knit-Rite社)
もともとアスリート用に開発されたコンプレッション・アームスリーブ。運動時の使用が念頭になるため、通気性・吸水性・発汗性は非常に高いです。
そのため、夏の通勤時での使用でも使用しやすい(出社後は通常の弾性スリーブに付け替えましょう)。
・Kチューブ(日本:ベーテル・プラス社)
もともと皮膚保護用に開発された筒状包帯。柔らかく、皮膚に一切の刺激を加えない工夫が施されているので、極端に皮膚の弱い方でも使用が可能です。
むくみのケアには圧が足りませんが、包帯などの下巻として使用したり、高齢者の循環補助用として用いられたりすることが多いです。
弾性スリーブは療養費支給の対象
「療養費」とは、購入の際は全額自分で支払いをしますが、加入している健康保険に申請すると、あとから自己負担分を除く金額が返還されるシステムです。
この申請には医師による「弾性着衣等装着指示書」が必要です。
KEA工房では、この指示書をお持ちでない方には、原則的に弾性スリーブの販売を行っていません。
よく「なぜ指示書がないと買えないのか」というご質問を受けますが、これはリンパ浮腫治療用弾性スリーブがあくまで「治療」のための用具で、医師等医療者の指示が最も治療効果につながると考えているからです。
逆に指示書がない場合、どのような効果が出るか予測できないことになるので、必ず医師等医療者と相談してほしいとの願いもあります。